1. ホーム
  2. 資料を知る
  3. コラム:学び いま・むかし(1)言葉のリズムと往来物

江戸~明治時代の教科書

コラム:学び いま・むかし
(1)言葉のリズムと往来物

《 前へ ||  || 学び いま・むかし(2)へ 》



さて、それらの「往来物」を見てみると、唱えて覚え込むのに都合のよいように工夫されているものを見いだすことができます。たとえば『東海道往来【とうかいどうおうらい】』(図1)の冒頭部分は、次のように七五調で、しかも「文字鎖【もじぐさり】」(はみ、品川がて、と句末の一文字を受けて句頭を始める形式、つまり、しりとりのようなものですね)になっています。

都路[みやこぢ]は
五十餘[いそじあまり]にみつの宿[やど]
時[とき]得[え]て咲[さく]や江戸[えど]のはな
浪[なみ]静[しづか]なる品川[しながわ]や
頓[やが]てこえくる河崎[かわさき]の
軒端[のきば]ならぶる神奈川[かながわ]は
はや程谷[ほどがや]のほどもなく
くれて戸塚[とつか]に宿[やど]るらん……
(※[ ]内は振り仮名)

調子よく唱えて五十三次を覚えてしまったことでしょう。仮に実際の地理感覚やその他の意味が分からなくても、唱えて覚えてしまったものはなかなか記憶から消え去りませんから、後に思い合わせて認識を深めることができたわけです。

上の例のみならず、「往来物」には七五調を採用することが少なくありませんでした。七五調は、日本の短詩形文学の伝統に基礎を置くものですが、演劇にも俗謡にも取り入れられるほど日常的なもので、日本語と相性のよい、身体に染みついたリズムでした。このようなリズムは、すでに私たち現代日本人の多くが忘れかけているものかもしれません。


もう一つ例を挙げてみましょう。漢字の学習は現在も苦労を伴うものですが、定型詩の伝統はありがたいもので、漢字を扁・冠・旁やその他の属性ごとにいくつかまとめて、和歌のリズムに載せて覚えさせようとするものがありました。『小野篁歌字尽【おののたかむらうたじづくし】』(図2)(図3)がそれです。

栢[かや] 柏[かしわ] 松[まつ] (木と久の合字)[すぎ] 檜[ひのき]

百[ひゃく]はかや
白[しろ]きはかしわ
公[きみ]はまつ
久[ひさ]しきはすぎ 會[あふ]はひのきよ

(※以上図3部分の翻字, [ ]内は振り仮名)

このようなものがたくさん集められています。中にはどれほど実用に供したのか疑いたくなるものもありますが、象形文字の持つ視覚的要素と和歌のリズムを組み合わせた秀逸なもので、江戸時代には広く行われました。


(丹 和浩 【たん かずひろ】 | 故人・本学附属高等学校大泉校舎教諭)

《 前へ ||  || 学び いま・むかし(2)へ 》